フィード
投稿
コメント

透明の色

 今年度予定をしていた、Kさんを招いた造形遊びが、3ヶ月遅れでようやく動き出しました。

 まずは、Kさんとの顔合わせということで、7月は、まずは5歳、次に4歳、最後に3歳と、ちょうど時を遡るかのように日程を組み、各回とも時間差をつけて、少人数でゆっくりと「色遊び」を楽しみました。時は違えど、この全員が同じ環境で、同じ活動に勤しむというのも、なかなか実験的で興味深い試みにもなりました。

 用意された長尺の和紙の上に、たっぷりの水で解いた、色鮮やかアクリル絵の具を、ポトンッ…と筆で落としてみることから始めます。霧吹きで先に和紙に水を含ませておくと、落とした場所から色がジワッと広がり、隣から押し寄せてきた色と重なり合って、そこにまた、別の色が浮き出てくるのです。

 この濁りのない、すっきりと感じる交じり合い方が、きっとアクリル絵の具の成せる技なのかな…と関心していると、その横で、筆にたっぷり含ませた色水が和紙に染み込み切らず、紙の傾斜と弛みに沿って、ツーっと筋を描いて流れる細長い筋模様を発見した男の子。(これも、化繊を織り込んで丈夫にした、今時の和紙を選んだ、専門家の視点を感じます。)
 すると今度は、紙の端にまで届いたその絵の具が、ポタポタと地面にこぼれ落ちる様子がまた面白いようで…ついには、容器から直接、絵の具を紙の上に垂らし、紙端から流れ落ちる色水を、別の容器で受けるという、私の想定を越える遊びへと変わっていきました。

 これは一見、「色遊び」が「水遊び」に転じていったようにも見え、もはやそれは造形遊びではない、と言われてしまいそうですが、果たしてこの両者の間に、どれだけの違いがあるのかと、考えこんでしまった私。前者の色遊びだって、滲みや流れ、筆跡といった液体ならではの特性を楽しんでいるわけで、「素材と戯れる」という点で、実は両者の間に、そんなに違いもないように思えたのです。
 そしてこれは、出来上がった「作品」にではなく、その活動プロセスにこそ意味があり、その人なりの素材との関わり方が、造形の本質なのかもしれない…そんな事を感じさせてくれた出来事でした。

 しかし一方で、色水の持つ「色彩」にも心揺らして欲しい…例えば今回の活動の意図は、そこにもあるわけです。ただこれは、その子にとって、水にまつわる一番目の関心事がまだ別にある限り、こちらの勝手な期待に目を移すことは、難しいことなのだろうなと思うのです。
 するとそこに、ある大切なことが見えてきます。それは、普段から、勝手気ままな水遊びを、存分に楽しんでおくことの重要性です。まずは「液体」ならではの性質を、五感を使って十分に味わっておく…そんな素地があれば、「こんなのもどう?」なんて投げかけに、「どれどれ」と気持ちを寄せる余裕も生まれてくるのかもしれません。
 だから、「遊び」は大事なのです。この乳幼児期は、五感を働かせながら、たわいもない遊びに夢中になる中で、この世を構成する一つ一つと出会い、生まれ出でた世界を知っていくのです。

 さて、3歳の様子はまた特別でした。
 まずは、Kさんが、透明の水を含ませた筆を、さっと和紙の上を真横に走らせて見せると、灰色がかった滲みが、まるで墨絵のようにじんわりと浮き出てきます。子どもたちが口々に「蛇だ!」と発する声を聞いて、その蛇の口先に、水滴を落としてみると…今度は「ネズミ!」。すると「ニャア、ニャア」とさらに発想を広げる子どもたち…導入で、こんな即興的なやり取りが続きました。
 そして、「じゃあ、みんなも!」と声がかかると、ピョンピョンと小刻みにジャンプを繰り返して高揚感を伝えてきます。この子たちにとっての造形とは、想像遊びや運動遊びとの境目すら、危ういものなのかもしれません。そういえば、ちょっとしたアクシデントから、紙の裏側に筆をあてても、描画できることを発見したのも、この子たちでした。

 5歳と3歳の間、外の仕事で顔を出せなかった4歳児の日。紙の上を這うように広がっていく絵の具の動きを「ブーンって広がる」と表現した子の話を、興味深げに伝えてくれた副園長。
 そしてたまたま、Kさんが無色の水で描いた線を見て、「透明の色、ちょうだい!」と絵の具を求めてきた子がいたそうです。早速これを、先ほどの3歳児との活動の導入に取り入れてみたとのこと。「こんな発見が、子どもたちと活動する醍醐味」と語ってくれました。

 どうやら、私たちが見ていた造形物とやらは、戯れの名残り…ただの痕跡…そんな気すらしてきたのでした。

(令和2年7月号 園だより「ひぐらし」より)

2通の返信 to “透明の色”

  1. 中村です より:

    水と絵の具 そして和紙 いいですね  写真もいつもステキです
    ところで、皆が同じ環境で活動する機会って少ないんですか?
    幼稚園そんなことばかり・・・
    ところで最後の写真、この夏を象徴するような・・・
    貴重なコメントと写真ありがとうございました
    中村

  2. hige より:

    もちろん、クラスやグループのみんなで活動することは少なくありません。普通、その集団が年齢別であるなら、その発達年齢に応じて、多少内容や環境設定を調整しますよね。今回は、比較的シンプルな活動内容だったので、全年齢で、あえて、流れ、道具、環境など何もいじらずに、保育者側の新たな発見にも期待しながら取り組んでみようということになりました。
    「皆が同じ環境で」というのはそういう意味なのです。(^_^)/

返信する